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東京地方裁判所 平成8年(ワ)12662号 判決 1997年5月13日

原告

保坂守

被告

久保澤義和

主文

一  被告は、原告に対し、金一一九万二八六四円及びこれに対する平成六年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、一二九一万二三五三円及びこれに対する平成六年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、左右の見通しの悪い交差点における出合頭の交通事故により傷害を受けた原告が、相手方の運転手に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  本件交通事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、顔面外傷、右膝部打撲挫創、外傷性歯牙脱落・破折欠損等の傷害を受けた。

事故の日時 平成六年一〇月一四日午後八時二〇分ころ

事故の場所 東京都江戸川区西篠崎一丁目三番地先交差点路上(別紙交通事故現場見取図参照。以下、同交差点を「本件交差点」といい、同図面を「別紙図面」という。)

加害車両 普通乗用自動車(足立五四な二二五四。被告運転)

被害車両 自動二輪車(足立ぬ二八五一。原告運転)

事故の態様 加害車両の左前側部と被害車両の前部とが衝突した。事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  責任原因

被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、また、前方不注視等の過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の後遺障害事前認定等級

原告は、平成七年四月七日症状が固定し(当時一七歳)、自動車保険料率算定会東京第一調査事務所により、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害等級表」という。)一二級三号に該当する後遺障害が残存する旨の事前認定を受けた。

4  損害の(一部)填補

原告は、自賠責保険から合計四九三万三六八九円の填補を受けた。

三  本件の争点

本件の争点は、原告の損害額と本件事故の態様(過失相殺)である。

1  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 治療費 二三五万六九一四円

都立墨東病院分 二〇万八五四〇円

菊地外科胃腸科分 九四〇五円

井上歯科医院分 二〇九万八八四九円

日下部病院分 四万〇一二〇円

(2) 入院雑費 二万三四〇〇円

原告は、事故日の平成六年一〇月一四日から同月三一日までの一八日間都立墨東病院に入院した。その間の入院雑費は、一日当たり一三〇〇円として一八日間で右金額となる。

(3) 将来治療費 一八〇万〇〇〇〇円

原告は、本件事故により一〇本の歯が義歯となつたが、今後も将来にわたり六年ごとに義歯を交換する必要があり、原告の症状固定時の平均余命を五七・八七年として、今後九回交換することになるから、一回の費用を二〇万円として、将来治療費は、右金額となる。

(4) 休業損害 二〇九万二一一三円

原告は、本件事故当時、有限会社大澤建設に勤務し、月額一八万七五三六円(事故前三か月間の平均)の給与を得ていたものであるが、本件事故により三〇五日間休業を余儀なくされ、さらに、休業により八月分と一二月分の賞与(各九万九〇〇〇円)を得られなくなつたものであるから、その間の休業損害は、右金額となる。

(5) 逸失利益 五九五万五七一七円

原告は、前記の後遺障害により症状固定時から六七歳までの四八年間にわたり一四パーセントの労働能力を喪失したものであり、男子労働者学歴計年収額二三五万三三〇〇円を基礎とし、ライプニツツ方式により中間利息を控除して逸失利益を算定すると、右金額となる。

(6) 慰謝料 三九四万〇〇〇〇円

原告の精神的苦痛を慰謝するには、入通院慰謝料として一七〇万円、後遺障害慰謝料として二二四万円、合計三九四万円を下らない。

(7) 弁護士費用 一三八万一一二三円

(二) 被告の認否及び反論

原告の損害額のうち、治療費、入院雑費については認めるが、その余の損害、とりわけ将来治療費、休業損害、逸失利益については、争う。

原告の後遺障害は歯牙欠損であり、原告の労働能力に影響を与えるものではない。

2  本件事故の態様(過失相殺)

(一) 被告の主張

本件事故は、被告が本件交差点に進入するに際し、一時停止後、右方の確認に気を取られ、左方の安全確認不十分のまま本件交差点内に進入したため発生したものであるが、原告には、制限速度の四〇キロメートルを一〇キロメートル上回る速度で進行し、かつ、交差道路の安全確認を怠つた過失があるから、原告の損害額を算定するに当たつては、四五パーセント斟酌すべきである。

(二) 原告の認否及び反論

被告が一時停止したこと、原告が制限速度を超える速度で進行したことについては、いずれも否認する。

本件事故は、被告の一時停止義務違反と左方の安全確認不十分が主たる原因となつて発生したものであり、被告の主張は不当である。

第三争点に対する判断

一  原告の損害額について

1  治療費 二三五万六九一四円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 二万三四〇〇円

当事者間に争いがない。

3  将来治療費 五五万六五〇〇円

甲八、一三、原告本人によれば、原告は、今後も将来にわたり六年ごとに義歯を交換する必要があり、費用として一回当たり二〇万円を要することが認められ、平成七年簡易生命表により一七歳男子の平均余命は六〇・〇四年であるから、今後一〇回の交換を要することになり(なお、六〇代後半以降、健常者についても義歯の利用が多くなる蓋然性があることを認めるに足りる証拠はない。)、将来治療費の症状固定時の現価をライプニツツ方式(係数二・七八二五)により中間利息を控除して算定すると、次のとおり、五五万六五〇〇円となる。

200,000円×2.7825=556,500円

4  休業損害 一一七万二五四七円

甲二ないし六、原告本人、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、有限会社大澤建設に土木作業員として勤務し、本件事故により、事故の翌日である平成六年一〇月一五日から症状固定日である平成七年四月七日までの一七五日間休業を余儀なくされたことが認められ(その後については、甲七により、頭部打撲と脳震盪の傷病名で二回通院したのみであり、他に症状固定後の休業の必要性を認めるに足りる証拠がない。)、基礎収入及び賞与額についての証拠が全くないため、統計資料である賃金センサス平成六年男子労働者学歴計一八歳ないし一九歳の平均年収額二四四万五六〇〇円を基礎として、右期間の休業損害を算定すると、次式のとおり、一一七万二五四七円(一円未満切捨て)となる。

2,445,600円÷365日×175日=1,172,547円

5  逸失利益 認められない。

原告が後遺障害等級一二級三号の認定を受けたことは、当事者間に争いがなく、原告は、七歯以上である一〇歯に対し歯科補綴をしたことが認められ、加えて、原告本人によれば、かみ合わせが悪くなり、言葉の発音もはつきりできなくなつたことが認められるが、本件事故の前後を通じた原告の減収の事実を認めるに足りる証拠はない上、原告の現在の職業(土木作業員)及び将来就くことを希望していた職業(整備士)、年齢等を前提としても、原告の前記後遺障害が原告の労働能力喪失をもたらすことを認めるに足りる的確な証拠はない。

また、原告は、現在も頭痛等の神経症状に悩まされていると主張し、これに沿う原告本人供述もあるが、これを裏づけるに足りる的確な証拠はない。

したがつて、原告の後遺障害を前提とする逸失利益は認められない (なお、この点は、慰謝料において斟酌することとする。)。

6  慰謝料 四五〇万〇〇〇〇円

原告の傷害の部位程度、入通院期間、後遺障害の部位程度、後遺障害等級認定を受けながら、逸失利益が認められなかつたこと、その他本件に顕れた諸般の事情を総合斟酌すると、原告の入通院慰謝料として一八〇万円、後遺障害慰謝料として二七〇万円、合計四五〇万円と認めるのが相当である。

7  右合計額 八六〇万九三六一円

二  本件事故の態様(過失相殺)について

1  前記争いのない事実に、乙一ないし四、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場付近の状況は、概ね別紙図面記載のとおりである。

本件交差点は、鹿本通り方面から篠崎公園方面に向かう車道幅員五・五メートルの道路(以下「被告進行道路」という。)と、千葉街道方面から鹿骨街道方面に向かう車道幅員六・三メートルの道路(以下「原告進行道路」という。)とが交差する、信号機による交通整理の行われていない交差点である。

原告進行道路、被告進行道路の最高速度は、いずれも四〇キロメートル毎時に制限されているほか、被告進行道路には、本件交差点の手前に一時停止標識が設置されている。

本件交差点の道路路面は、アスフアルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、乾燥していた。夜間の照明は、街路灯等により明るい。

原告進行道路、被告進行道路の前方の見通しはよいが、原告進行道路の右方、被告進行道路の左方の見通しは、いずれも不良である。

本件事故後、本件交差点の原告進行道路の路面には、長さ四メートルのスリツプ痕が印象されていた。

(二) 被告は、本件事故当時、本件交差点の被告進行道路は、よく通る道路であり、交通規制は知つていたものであるが、本件事故当日、帰宅するため、鹿本通り方面から篠崎公園方面に向かい、加害車両を運転し、時速約三〇キロメートルで進行中、別紙図面の<1>地点において一時停止後、発進し、同図面の<2>地点において右方を確認したところ、車両はないようであつたため、ハンドルを右に切りながら、時速約一五ないし二〇キロメートルで進行したところ、同図面の<3>地点において、左方の駐車車両の陰から進行してくる原告車両を発見し、危険を感じ、ブレーキを踏もうとして慌ててアクセルを踏んでしまつたところ、原告車両の前部が、被告車両の左側部(左前角から後方に約一メートル付近)に衝突した(衝突地点は、同図面の×1地点)。

本件事故後、被告車両は右方に逸走し、別紙図面の<4>地点において、甲地点に駐車中の車両に衝突し(衝突地点は、同図面の×2地点)、同図面の<5>地点に停車した。駐車車両は、反動により同図面の乙地点に移動した。

本件事故により、被告車両は、左ボデイーが凹損する等した。

(三) 原告は、本件事故当時、本件交差点の原告進行道路は、通勤の際よく通る道路であつたが、本件事故当時、ガソリンスタンドまで給油に行くため、原告車両を運転し、時速約四〇ないし四五キロメートルで進行中、別紙図面の<ア>地点付近において、本件交差点の被告進行道路から被告車両が進行してくるのを発見し、急ブレーキを掛けたが間に合わず、同図面の×1地点において被告車両と衝突した。

原告は、本件事故後、直ちに救急搬送されたため、本件事故当日、午後九時二〇分ころから九時三〇分ころまで実施された実況見分には立ち会わなかつた。

本件事故後、原告は、別紙図面の<イ>地点に転倒し、原告車両は、同図面の<ウ>地点に停止していた。

本件事故により、原告車両は、ハンドル、ブレーキ等が破損したほか、フロントフオークが曲損する等した。

(四) 原告は、被告が本件交差点に進入するに際し、一時停止を怠つたと主張し、原告は、法廷において、それを裏づける目撃者も複数いると供述するほか、本件事故後、原告の母が被告と原告の入院先の病院で会つた際、被告から直接その旨を聞いたとする証拠(甲一一)もないわけではないが、右原告供述は伝聞である上、甲一一の記載についても、被告がこれを否定しており、他にこれを裏づけるに足りる証拠はないから、被告本人供述及びこれに沿う内容の乙二の記載によれば、被告が本件交差点に進入する前、一時停止をしていたものと認められる。

2(一)  右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討するに、本件事故は、信号機による交通整理の行われていない左右の見通しの悪い交差点内における四輸車と自動二輸車(単車)との出合頭の事故であるが、被告は、本件交差点に進入するに際し、一時停止はしたものの、同位置からでは、左方の原告進行道路の見通しは未だ十分でないのであるから、被告としては、前進しながら交差道路の車両の動静を確認できる地点において、再度安全確認等すべきであるのにかかわらず、これを怠り、漫然進行した結果、本件事故を引き起こしたものであるから、本件事故発生についての主要な責任がある。

他方、原告も被告進行道路側に一時停止規制があるのに気を許し、右方の被告進行道路の見通しが悪いのにかかわらず、漫然、同速度のまま進行した点に過失がある(道交法三六条四項によれば、車両は、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないこととされており、前記認定の本件交差点の状況とりわけ車道幅員、左右の見通し状況及び本件事故発生時刻等に鑑みると、本件交差点内を時速四〇キロメートル程度で進行することは、右の安全な速度で進行したものとはいえない。)。

(二)  そして、原告及び被告双方の過失を対比すると、その過失割合は、原告三〇、被告七〇と認めるのが相当である。

三  過失相殺

前記二2(二)の過失割合に従い、前記一7の原告の損害額から三〇パーセントを減額すると、その残額は、六〇二万六五五三円となる。

四  損害の填補

原告が自賠責保険から四九三万三六八九円の填補を受けたことは、当事者間に争いがないから、右填補後の原告の損害額は、一〇九万二八六四円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、一〇万円と認めるのが相当である。

六  認容額 一一九万二八六四円

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、一一九万二八六四円及びこれに対する本件事故の日である平成六年一〇月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

交通事故現場見取図

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